そうしてしばらく頬に当てていたかと思うと肌を伝って首筋のほうへさらに胸のほうへ下りてゆきしばらくそこを回遊したのちその下の膨らみというか窪みというか茂みというか適度に湿りを帯びた襞というか亀裂というか穴というか染みだし溢れだすのを搔き分けて奥へと向かうのを締めつけたり緩めたりして守るというか攻めるというか互いに昇り詰めるためのそれは共同戦線なのであるからして共に果てようと巧緻を尽して已まないが誘われるまま奥へと深入りしすぎると先に果てそうになりそうした場合一旦退いて体勢を立て直してから再び突き入れるが最初は浅く次第に深く抉り込むように突くべしと突き立ててゆき突くべし突くべし突くべしと何度も何度でも突くべし突くべし突くべしとしっかり押さえ込んで抜けないように突くべし突くべし突くべしと叩くような弾けるような乾いたような湿ったような響きの中漏れださないよう溢れ出ないよう蓋をし栓をするようにぴったりと塞いでしまうがそれでもそれは漏れだしてくるし溢れ出て已まず艶やかに濡れて煌めくその姿は浮かんでは消え消えては浮かぶスクリーンの中の虚像にも似てしかとは捉えがたくそれでも素肌に汗が滲むというか滴る汗が眩しく輝くというか照りつける日差しの下に坐しながら洩らす吐息というか声というかその身から放たれるものは何であれ愛おしく神々しくだからその姿をもっとよく見ようその声をもっとよく聞こうその香をもっとよく嗅ごうとするのでありそうした期待に応えて何を返すのか返したのかそれは分からないが心に響く言葉を残したに違いなくそれをこそ知りたいと目を凝らし耳を傾けてももう見ることは叶わないし聞くことも叶わないのだから教典に描かれた姿から想像するよりほかにないがそこに描かれている姿はあまりにも神々しいというかその身は紫今色(しこんじき)にして百宝の蓮華に坐しているとかその輝きは十方世界を照らしているつまり遍く満ち渡って遥か何百何千何万何億もの彼方にまで届くとか想像を絶していていずれにせよ左に目連右に阿難を従えて慈愛に満ちた眼差しで四囲を眺めやるその眼差しといったらそれはもうそれはもうそれはもう言葉にできないというか言葉にした途端逃れ去ってゆくというか、とにかく見つめられて奮い立つというか尚いっそういきり立ってもっと深くもっと奥へと勇んで突き進みそれ以上は入らないというところまで刺し貫いて抜けないように奥まで突き立てられたそれは大人の握りこぶしほどはあるだろうか真っ赤に染まって艶々と照り映えていて玉のように丸く今にも弾けてしまいそうだが幾列にも並んでいるそれが強い光沢を放っているのは色硝子のような飴が表面に分厚く施されているからで下から細長い棒に突き刺されて真紅に染まって晒し首のように見えるせいかいや違う上から柔らかな電球の光を受けて眩しく輝く姿は宝石と見紛うほどでその表面には白い斑点がいくつも散りばめられてあるが中心ほど白く縁へゆくにつれてピンク色のそれは絶えず形を変化させてつまりこちらが動くのに合わせてあちらも変化するというわけでまあ玉といっても完全な球体ではなく上のほうは平らになっていてつまり飴がまだ柔らかい状態で絡ませるためそれが固まらないうちに突き立ててしまうと棒のほうへ流れ落ちてしまうのだろう飴が冷えて固まるまで鉄板に逆さまにつまり突き刺した細長い棒を上に向けて置いておくわけでそうして血に塗れた真っ赤な首が無念やるかたなしといった相貌で幾列にも並ぶ様は壮観というか違うそうではなくぐるりを硝子に囲まれた中に幾列にも並んだその数に圧倒されて茫然と眺め入って已まないがそんなふうに眺めているうちに流れ去ってしまうらしく次の瞬間にはもう搔き消えて艶やかな赤い宝石たちはバナナやソーセージにあるいは雲のような綿のようなふわふわしたものに変じているとはいえいったいそれはどこから現れるのか何もない盥の中に細長い棒を差し入れて指揮者か何かのように振り廻しているだけなのにその棒の先には蜘蛛の糸のような白く艶やかな筋状のものが纏わりついていて見れば盥の中はその艶やかに光るふわふわした蜘蛛の糸で満たされてまるで雲海のようでそれを棒で絡め取ってゆくとそこにひとつの雲が形作られるつまり空に浮かぶ雲のミニアチュアができ上がるというわけだが触れることもできるし食べることもできるそれはとても甘く味つけられた雲で白だけでなくピンクや緑や黄色やの雲もあって秘蹟か魔法か何かそうした類いのものに違いなくよく見ると盥の中央に筒が突き出ていて煙を逃がす煙突ではないらしくそこへ手を翳して指先を擦り合わせているのは術式か何かだろう呪文までは聞き取れないが何ごとか唱えているようでもありそれら動作のひとつひとつが儀式めいて具に捉えようとしても捉える前に逃れ去ってゆくというか早廻しのフィルムでも見ているように肝心なところは何ひとつ捉えることができずそれは金魚を掬いあげるにせよ亀を掬いあげるにせよ風船を掬いあげるにせよ同断で何も隠し立てしていないのに間近に目にしているのに動きが速すぎて見えないというより何か防壁のようなもので護られているのに違いなくその秘密をこそ知りたいと願っていたらしいというか今もいくらかは願っているのではないだろうか願って叶うものではないにせよ、そんなわけで繋いだその手の向こうにというかちょうど目線の高さに黒い鉄の板が熱せられているのが見えてそれが近づいてくるにつれ熱気に包まれた顔はいくらか熱くなりヒリつくようなその熱気の中で黒い鉄の板の上をこちらはステンレスだろう二本の篦が右から左へ左から右へ手前から奥へ奥から手前へあるいは平行にあるいは交差してあるいはそれぞれべつの方向へ動き廻ってさらには篦と篦とが擦れ合って小気味よい金属音が鳴り響きそうして小麦粉と卵と刻んだキャベツと豚肉とその他にも様々な具材の入っているどろどろした粘りのある生地を丸く成形したものを廻転させたり移動させたり持ち上げたりひっくり返したりしていたからだろう生地の焼ける匂いや甘いソースの焦げる匂いばかりが際立つというか鼻につくというかその前を通りすぎてもまだそれは絡みついてどこまでも追い掛けてくるらしく流れには逆らえないから逃げるに逃げられずもちろん逃げも隠れもしないがつまりいくつも並んだその顔に見つめられて取り外しのできる便利な顔には違いないが同じ顔がいくつも並んでいるのには閉口するというかそのいずれもが一様に同じ笑みを浮かべてこちらを窺っているからだろうというか笑みの形に凝固した顔面を一様に同じほうへ向けているからだろうとはいえそれらは悉く目玉を刳り抜かれているから見ることなどできないのだがそれなのに見られているような気がするというかたしかにこちらの様子を窺っているのでありつまり見ることができないからこそその不在の眼差しに囚われることにもなるらしく首から下の存在しないこれこそ晒し首と言っていいそれら顔面の連なりの威圧感は弥増さり流れには逆らえないから逃げるわけにもいかずもちろん逃げも隠れもしないがというかできないが息を殺して伏し目がちに粗相しないように何が粗相かは知らないがそこを切り抜けると濁流に呑まれて息を詰まらせつまり前も後ろも塞がれて唯一塞がれていないのは上のほうだけでそこを塞がれると息もできないというのではないにせよ空が見えるだけで何がなし軽くなるような気がするからそちらのほうへ向けられてというのは視線がだが次いで息を継ぐように大きく吸い込んでそれから吐きだしてまた吸い込んでまた吐きだしてを幾度かくり返すうちに少しく楽にはなるらしくいずれにせよ隅々まで黒く塗り潰されて星も見えないのは月が出ていないからではないし雲に覆われているからでもなく通りが明るく照らされて眩しいからだが足を止めたのはその眩しさに目を奪われたからではなく少しく空気の通りがよくなったからでつまり一方の壁が取り払われてそれまでなかった空間が開けたからでそうして閉塞した息苦しさから解放されると身体はその開けたほうへ引き寄せられてゆくらしくそれとも押されて弾きだされるようにしてかとにかく流れとは一線を画すようなその空間に足を踏み入れるというか一歩手前で踏み留まると白いものが茫と浮かび上がって真っ白というより色褪せ黄ばんでいるような周囲にまで滲んでゆくような滲んで霞んでしまうような霞んで消え入りそうなあるのだかないのだか微動もせず坐り込んでいるそれは白い着物姿と思しく喧噪の中でそこだけ音がなく時間もなく何もかもを呑み尽してついには色も失われてそれで仄白く染まってしまったとでもいうように周りから白く浮き上がってそこだけ異質な領域と化していてだから人の波もそこまでは及ばないらしくその中心を避けるように足早に通りすぎるから何か見てはいけないもののように感じられるがそれは視線を遠ざけるよりはいっそう釘づけにするらしく波に乗って運ばれてゆきながら尚そこに留まろうとする視線はその姿をもっとよく捉えようとし終始頭を下げたまま人形のように動かないそれは四十五度の角度を維持しつづけながら流れの外にあって流れの影響を受けず逆に流れに影響を与えているようにも思えるが人なのか人ではないのかもちろん人には違いないがまったく動かないので尚さら判然としないし肘辺りまでの袖から突き出ている棒状のものを本来腕がついているはずのところについている棒状のものをそこだけは人形と言っていいというかそのせいで全体が機械仕掛けのような印象を帯びてしまうそれを誇示するというか支えとして前方に屈み込んでいるから影になったその表情は読みとれないにせよその姿勢がいったい誰に対してのものなのか偏にそれは自分に向けられている自分にだけ向けられているとそうした認識が生じてくるとそう言っていたのだろうか。
小説/literary fictions