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そうした夢見がちな日々の残滓に埋もれるというのではないにせよいくらか填り込んで足を取られるというか取られそうになりながらぎったんばっこんではないが上がったり下がったり右へ傾いたり左へ傾いだり前へつんのめったり後ろへ仰け反ったりというように危うい均衡で歩いてゆく姿は歪んだ凸面にももちろん反映されるから当の反映を見せつけられてさらにも危ういことになるが歩幅の狭さにそれが端的に表れて一歩の距離に二歩を要すると言ったら言いすぎか少なくとも三分の二あるいは四分の三程度の幅しかなくそのため距離がさらにいっそう伸びてゆくようなゴールが遠離ってゆくような丁字路というか逆ト字路というかそれがまた近づいてくるような振り返ればすぐそこにあるようなそんな気がしてならないのはもちろん疲れているからでそれでも引き返すわけにはいかないしもう終わるのだからと遥か前方を窺うと白いというか青み掛かった白色というか暖かさをよりは冷たさを感じさせる光に照らしだされて路面も壁面も仄白く波打っているがそれまで闇のほうばかりを見据えていたからだろう暗さに馴れた目にそれは眩しすぎるというかそれだけ四囲の闇が濃く深くなりだから目を馴らすためにいくらか視線を逸らしながらつまり眩しさと暗さとの中間辺りを見据えながらそちらのほうへ近づいてゆくのは甘利にほかならずもちろん疲れてもいないがその壁面には横に長く伸びた線がいくつも引かれていて手前のほうは幅が太く奥へゆくにつれて狭まってゆくように見える黒い部分と濃い灰色の部分と薄い灰色の部分とに分かれているそれはさらに無数に細分されているが大きくその分けて三つから成っていると言ってよくつまり三つの構成要素が整然と並んでいるのでありというのは明るい部分と暗い部分とその中間部分との三つだがそうして台形の枠の内側に納まって縞模様を形成しているが壁面より少し奥まった位置にあって固く口を閉ざして他者の侵入を頑なに拒んでいるその前に至ると線はほとんど平行になり台形の枠も四角くなってつまり四隅の角度がそれぞれ九十度であることが分かりそれはどこか額縁めいてよく見ると至るところにそうした額縁があるというか額縁だらけというかあらゆるものが四角い枠の中に納められていると言ってよくなぜといってそのほうが万事都合がいいからでそうして四角い枠の中にさらに四角く切り取られて白く縁取られているのもあればそうでないのもあるが上というか手前にごく薄い膜というかヴェールというか透明だから見ることを妨げない覆いが掛けられてあり下というか後ろに厚手のボール紙のような台紙が据えられてありだからそのふたつの間にあるというか両側から挟み込まれて動かないよう固定されているその中にいくつもの四角がいくつもの場面を伴いながら納まっているわけであらゆる瞬間を切り取り定着させたそれらいくつもの場面をいったいどのように定着させたのだかその詳細は不明だがというのも地下の秘密基地とか山奥のアジトとか何かそんなふうな施設の狭暗い室内で白衣に身を包んだ研究員と思しき人物が怪しげな液体に浸すと浮かび上がってくるそんな場面を幾度か目にしたことがあるだけだからでとにかくいずれも黄ばみ変色しているせいか淡い色合いで劣化の激しいものとそうでないものとの差がどこにあるのかそれは分からないが鮮烈な赤もその鮮烈さを失って久しくごく薄いヴェールに包まれてくすんだ小豆色というか臙脂というか真新しいのに古びている古びているのに真新しいそんな相貌を示すそれらいくつもの場面はそれぞれべつの場所だろうもちろん広義に解釈すれば同じ場所と見做せるものもあるが厳密に言えばすべて異なる位置からの眺めであるからして同じ眺めはひとつとしてありはしないということで、とにかくそのすべてに写っているのが確認できるがひとつとして身に覚えがなく手にした小枝を振り廻していたりその小枝を不思議そうに眺めていたり向けられたレンズを見ていたり見ていなかったり笑っていたり笑っていなかったり眠っていたり起きていたり泣いていたり驚いていたりするもののたしかにその場にいたはずでだからこそ写っているのだがどれもこれも他人のような気がしてならないし並んで写っている同じような年恰好の子らがいったい誰なのか垂直に聳え立つ壁というか塀というかざらざらしていて寄り掛かれないのでその前にそれを背にして立ちながら盛り上がっているところをつまり必死に逃げ廻っているところをあるいは懸命に追い掛け廻しているところを呼ばれて整列させられたから不貞腐れているというのではないにせよどこかつまらなそうな面持ちというかそんな雰囲気を漂わせながらはいチーズの呼び掛けにも乗り気ではなく何が起きているのかまったく理解できないというのではないにせよ関心が薄いからだろう散々気を揉まされたその結果タイミングを逸したのらしく誰ひとりレンズのほうを見ていないつまり合わせて六つの目はそれぞれ異なる方向へ向けられていてそれら三つの眼差しはそれぞれ何を捉えているのかそこには何があるのか分離帯の植込みに遮られてその向こうまでは覗けないのでありつまりそこにはこんもりと生い茂って幾重にも折り重なった葉が生温い風に揺らいでいるのが覗けるのだがその中に赤というかピンクというか縁へゆくにつれて赤く中心へゆくにつれて白くそうしてその間に赤っぽいピンクから白っぽいピンクまでのグラデーションが見られる☆の形をした花弁の五枚あるのがいくつも顔を覗かせているのでありそれを毟り取ってラッパ状というかロート状というか窄まったその先端に開いている穴のほうを咥えてラッパのように息を吹き込んでも音はしないが息を吸い込むと甘い蜜の味がするから次々毟っては吸い毟っては吸いをくり返して喉を潤しながら植込みの周りを行ったり来たりするがさすがにすべてを吸い尽すのは気が引けるらしく五つか六つくらいに留めておきそれとも十から二十くらいだったろうかあるいはそれ以上かもしれないというのは至るところに植込みはあるし幾重にも折り重なっている花の数は数え切れないほどでなくなる心配はないからだがそう思ううちにも花は散って葉はくすんだ黄緑というか白っぽい黄色というかどこか生気のない萎びたような色になってさらに全体が赤茶色にくすんだのが幾枚も地面に落ちていて日々にそれは増えていってついには骨のような枝を残すのみとなりいやそれはないがそれでも死んでしまったわけではないらしく同じ季節が巡ってくると青々した葉叢の中からいつの間にか☆の形が顔を覗かせて一帯をピンクに染め上げるわけでそしてまたそれを毟っては吸い毟っては吸いながら甘い蜜の香りの漂う中どこへゆくのかもちろん台地の際に聳える重厚な建物にほかならないがうねうねとつづく細くしなやかな勾配はいくつもの水滴を纏ってどこまでも煌めきうねうねいう音に合わせてぴちゃぴちゃと闇に包まれていて先のほうは見えないが丁字路というか逆ト字路というか振り返ってみてもそれはもう見えないのだろうか少なくとも心的距離に於いてはそうなのだがつまり物理的距離を差し措いて心的距離が先をゆくらしくうっかり振り返ろうものなら忽ち物理的距離に追いつかれて丁字路というか逆ト字路というかそれが迫り来るようなそこに引き戻されるようなそんなふうにも思い做されるから尚さら振り返ることはできず目の前の細くしなやかな勾配の緩やかな曲線に見蕩れながらぐにゃぐにゃというかぴちゃぴちゃというか波打つ様子に目を奪われもして他のものがまったく目に入らないというのではないにせよいくらか疎かにはなって見えているのに見えていないというか目の粗い篩から零れ落ちるように意識の領野へ達する前にどこかへ散失してしまいつまりそれはもう見ることができないのかそれともいつかまた目にすることができるのか、いずれにせよどこからか吹き寄せて髪を靡かせる風は埃臭くもあり清々しくもあり鬱陶しくもあり心地よくもあり湿っぽくもあり艶っぽくもありつまりいろいろなものを運んでくるらしく潮の香りに海を幻視することもあれば太鼓の音や歪んだメロディやが風に乗って届けられることもありそうした音を耳にして坐していることができないのではないにせよ何がなし湧き上がるものがあるらしくどこから聞こえてくるのかどこで鳴っているのかとその音だけを頼りに勇んで探しに出掛けるが風向きによって聞こえたり聞こえなかったりしてなかなか辿り着けずそれでもいずれは辿り着けると信じて疑わずそしてその思いが通じたのだと思っていた節がありどこにかは知らないがとにかく一際明るいその場所が不意に開けた視界に大音量とともに現れてつまり公園というかグラウンドというかだだっ広いだけの閑散とした誰ひとり訪れないだろうようなそれでもいくつかあるベンチで日向ぼっこする野良猫くらいは見られるだろうようなそんな野良猫の寝姿を目当てに散歩途中に立ち寄る年寄りくらいはいるだろうようなそんな年寄りの連れている孫たちが駆け廻る姿くらいは見られるだろうような何もない広場らしくあるいは子連れの母親たちが噂話をするようなそうした広場なのかもしれずいずれにせよ本式の野球はできそうにないが三角ベースくらいならできるだろうというのは本塁一塁二塁三塁とあるべきところを中抜きして本塁一塁三塁とすることでつまりマウンドを挟んで本塁の対角線上に位置する二塁を除くことでマウンドを中心にそれを囲む形で本来四角形になるところが三角形になるのでありそれが三角ベースと言われる所以だが本塁側から見ると逆三角形になるのに逆三角ベースとは言わないから不思議だが狭い場所で尚且つ少人数でプレーできるわけでとにかくその広場の真ん中に巨大な櫓が組まれていてそこから四方へ向けて例の俵形というか小判形というか筒状のものがいくつも浮いているというか吊り下がっているらしく四囲を明るく照らしだすのでありそうしてそこを中心に男女らが円を描いて二重三重に囲みどこか間延びした節に合わせて腕を広げたり閉じたり上げたり下ろしたり押したり引いたり払ったり受けたり流したりというようないくつかのパターンを飽きもせず反復しながらつまり胸の前で掌を打ち鳴らすような仕草や振り下ろした腕を腰の辺りで払うような仕草や突然何かが襲い掛かってくるとか上から何かが落ちてくるとかするのを咄嗟に腕を掲げて身を庇うような仕草やをリズムに合わせて執拗にくり返しながら櫓の周りを廻っているが腹というか胸の下というか引っ張っただけで簡単に解けてしまいそうな布だか紐だかを結んだだけの着物の裾が翻らないように小股に踏みだすからか股に何か挟んでいるようにもあるいはおしっこを我慢しているようにも見えるひどくゆっくりした歩みで一周するのにどれくらい掛かるのか見当もつかずいずれにせよ櫓の上に据え置かれた太鼓を屈強な男がふたりで叩いているのだがその音が催眠音波になっていてそれで皆操られているのだとそう思っていた節がありだからあまり近づきすぎると捕まってしまうと一定の距離をおいて眺めていたらしくそれでいてソースや醤油やケチャップや砂糖やチョコやキャラメルやの匂いに満ちたその場から離れがたくもありどうしたら催眠音波に毒されることなく自由に移動できるかをずっと考えながら世界を安全地帯と危険地帯とに色分けすることが急務というか責務というかそれが自身の果すべき務めなのだとそう思っていた節がありそれでいて人々を催眠音波から救いだす手立てはないのでありそのことに思い至ると自身の無力を思い知らされるというか自分だけ安全地帯にいてソースや醤油やバターやケチャップや砂糖やチョコやバニラやキャラメルやの匂いを満喫していることに何がなし後ろめたさを感じてしまうがとてもそこまでの責任は負えないとも思うからソースや醤油や味噌やバターやケチャップや砂糖やチョコやバニラや苺やキャラメルやの香りを楽しんでも咎め立てされる謂われはないとそう嘯くだけの傲岸さはないにせよ楽しんだっていいではないかとは思うらしくそれでも心底から楽しめないというかどこか翳りのある笑みの内に今も尚それは潜在しているのか否かもちろん潜在しているに違いないが表に現れないそれを確かめることは困難でとにかく味噌や醤油やソースやバターやケチャップやチーズや砂糖やバニラやチョコや苺やキャラメルやの漂う中で世界の分割に余念なく刻々と変化する境界線の見極めに意を注ぐよりほかないのだったそれで何かが変わるわけではないにせよいや変わるのだ決定的に変わってしまうのだとそう言っていたのだろうかぴちゃぴちゃいう音に掻き消されて尚耳に残るのはその余韻というかエコーというか儚く消える残響だけなのかもしれないが。

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